迷子のマッパーことパステルは持っていた大きめのメモ帳を顔の高さに掲げて、 その影から恨めしそうにトラップを見た。 トラップは再度ビシィとパステルに指をつきつけた。 「甘い!あまいあまいあまいあまい!! おめぇ、いい加減マッパーだって自覚しろよな」 まったく、と大きく息を吐くとそっぽを向いてしまった。 痛いところを突かれたパステルはしょんぼりと眉を下げた。 しかし、いつまでも遭難しているわけにはいかないので地図とメモ帳と方位磁針を見比べ直した。 パステルは知らない。 トラップが大きく吐いた息が、パステルに呆れた溜め息ではなく、 安堵に胸を撫で下ろした結果だということを。 恨めしそうに見上げるそんな仕草ですら愛しく見えて、 ついこのままパステルを担ぎ上げて教会にでも突っ走っていきたくなった盗賊の心情を。 知るわけがない。 知っていたら大変だ、「おまわりさぁん!」と泣き叫んで逃げてゆくに違いない。 話を数日前に戻すとしよう。 さりげなく好意を示しても気付くどころかトンチンカンな反応しか返さない、 至上最高に鈍い女に惚れたのだ、と悟ったトラップ。 それは新たな宗教とできるのではないかとというくらいに穏やかな顔だったと彼の親友は後述する。 「そうだな、あれくらいで伝わるくらいならパステルじゃねぇもんな」 「へぇー、どんなことをしたんだ?」 クレイはなめした皮で剣を丹念に磨きつつ聞いた。 剣の刀身は光り輝き、特に剣の手入れの必要はなかったが、 今では彼の習慣の一部となっており、3日と置かず剣を磨く姿は剣マニアさながらである。 どこかのクレリックに見紛う程穏やかな表情は、親友の言葉にかき消えた。 クッション代わりに持っていた枕にドスッと正拳を突き出した。 「どうもこうもねぇよ! まったく、パステルのヤツときたら傍にいたいから部屋にいるのに 『お天気いいのに外出ないなんて不健全よー』なんて言いやがるし、 髪を触ってみても『何かついてる?』とか言うし、 遊びに誘ってみりゃもれなくルーミィとシロを連れてくるし、 ハンカチ落としてみても素で拾って返すし、 大きな曲がり角を曲がった途端にぶつかった所で恋の火花が飛び散ることもねぇし!」 「・・・・・・おまえ、わざわざ待ち伏せしてやったのか?」 パステルの鈍感さ云々よりも、幼なじみの怪しい行動の方が気にかかる。 幼なじみが顔を青ざめるのも目に入らないのか、 ギリギリと歯軋りをしていたトラップだったが、突然フッと笑みを浮かべた。 「それもこの計画をもってすれば終わるのさ」 言うと、ベットの下をゴソゴソと探り、巨大な模造紙を取り出してみせた。 「・・・・・・おまえ、そんなのいつのまに?」 クレイの呆れる声に聞く耳を持たず、トラップはゴチャゴチャ書き込まれた模造紙を床に広げた。 トラップはにっこり笑って、クレイの肩をポンと叩いた。 「協力してくれるよ、な?」 「・・・・・・・・・・」 ダメだ。 なんていうか、この計画で終わるとか協力しろとか、その辺りでダメだ。 しかし逆にそんな心境にまで達してしまった幼なじみが哀れにすら見えた。 クレイはシドの剣とも言われるロングソードをカチンと音を立てて鞘におさめて頷いた。 「わかった、何すればいいんだ?」 心の中でパステルに何度も何度も謝罪しながら。
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うーん・・・・、悪友っていうやつですか?(それで済むのか) 本当は、お巡りさんじゃなくて警備官さんじゃないかという気もします。 |
< 2002.05.13 up > フォーチュン・クエスト (C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス |
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