迷子に地図を 5/5
― そんな貴女に惚れました ―

 
 わかった上でこの反応ということは。


 トラップは嬉しさのあまりに大声で叫びたくなった。
 こんな幸せなことがあっていいのだろうか?
 元より、そういう計画であったものの、こんなにも嬉しいとは思っていなかったのだ。
 パステルを抱きしめたい、けれどもその前に。
「なぁ、それでも言いたいんだけど、いいか?」
 君のことが、好きでしかたがないこの気持ちを伝えても?
 すると、パステルの表情はみるみる曇って行く。
 
「ええー? やだよ、絶対に言っちゃダメ」

 嫌悪感丸出しのパステルの発言に思わず固まるトラップ。
「・・・・・・何故にですか、パステルさん?」
 思わずパステルに敬語で尋ねてしまうトラップ。
 パステルはその変化に気付く様子もなく、にへぇと嬉しそうに笑ってトラップに地図を渡した。
 持っている自筆のマップと地図をそれぞれ指差した。
「ほら、この三叉路。 私ってばずっと右側を通って来たって勘違いしてたんだー」
 てへへー☆と照れ笑いをしながらも嬉々として続ける。
「んでさ、この真中を通って来たんなら、 この泉がここってことになるし、方向もあってるし、ね?」
 そうでしょ?と確認するように尋ねる。
 トラップはというと、肩透かしの展開に、地図を地面へ叩きつけたい衝動をなんとか押さえた。
 散々パステルを胸中で罵りながらも声に出すのだけは我慢した。
「・・・・・・よく、わかったな」
 パステルのくせに!!
 トラップが心の中でそう毒づいてるのを知るはずもなく、パステルはうんうんと満足げに頷いた。
「よーし、薬草があるのは南に下って左の、東側の道! トラップ、行こう!」
 気合を入れるつもりなのか、おー!と右拳を高々と上げて道を戻りだした。
 なんだって。
(なんでこうなるんだよ・・・・っ?!)
 トラップは持ったままの地図をぐしゃりと握りつぶした。
「ほらほら、急いで。 早くクレイ達に追いつかなくちゃ」
 ハッパをかけるパステルの言葉にトラップは我に返った。
 このままおめおめとクレイ達と合流したら、
それこそ気持ちが伝わるのなんていつになるのか分かりはしない。
 こうなったら手段を選んでいる場合ではない。(最初から選んでなかったが)
 張っ倒してでも押し倒してでも、パステルに知らしめてやる!!
 トラップはダダダッとパステルにまで駆け寄った。
「あのな、パステル。 よく聞けよ?」
 パステルは「うん♪」と楽しそうに頷いた。
 あまりの能天気さにトラップは本気で張り倒したくなった。
(ったく、なんでこんなに楽しそうなんだ、コイツは!)
 ・・・・・・楽しそう?
 トラップは引っかかるものを感じて、知らしめようとしたのとは違うことを尋ねた。
「おめぇ、やたら嬉しそうだな?」
 パステルは再び「うん♪」と頷いた。
「だってさ、自分で言うのもなんだけど、これってマッパーとして進歩したってことでしょ?」
 言って、トラップが握りしめていた地図を受け取る。
「・・・・マッパーとして?」
「あ、また『それで普通なんだー』とか、イジワル言わないでよ?
私だって、ちゃんと役に立てるようになりたいんだからね」
 苦笑いをしながらパステルは地図を丁寧に広げた。
「でも、これも色々教えてくれたトラップのおかげかな? ありがとうね」
 心底嬉しそうなパステルの言葉には何の他意もないのだが。
 トラップは思わず緩みそうになる自分の口元を押さえた。
 ゴホンと咳払いを一つして、ニヤリと笑ってみせる。
「役に立つマッパーレベルにはまだまだ遠いみたいだけどな」
 そう言うと、予想通りに頬を膨らませるパステルの背中をポンッと叩いた。
「ま、その進歩ってヤツを見せてもらおうじゃねぇの」
 この次の冒険でも、その先のまた先の冒険でも。
 そして何度かの冒険が終わった時には、違う面でも進歩していることだろう。
 
 

 クレイ達はその三叉路の地点でのんきに昼食を取っていた。
 それを見たパステルはずるいと非難をし、クレイ達はパステルに何の変化もないことに驚いた。
 パステルとトラップも食事に混ざり、食後に例の薬草をとりに行くことになった。
 クレイはいたって普通にサンドウィッチにかぶりつくトラップにこっそりと尋ねた。
「なぁ、告白できなかったんだろ? いいのか?」
 トラップは咀嚼しながら頷いた。
 飲み込んで、チラッとパステルを見てから「いいんだ」と言った。
「もうしばらくはな。 進歩を見せてもらわにゃ」
 幼なじみの意味ありげな口調は楽しそうで、クレイとしても嬉しかった。
(あれ? でも・・・・・・)
 そうしていざ告白する時になったらどうするのだろうか。
 また何らかの計画に協力することになるのだろうか?
 げんなりとして肩を落とすクレイのマントを、かわいらしい小さな手が引っ張った。
「くりぇー、たまごやき、いらないのかぁ?」
「いや、そうじゃないけど。 ・・・・食べたいのかい?」
 クレイはよだれを垂らしそうな勢いのルーミィに卵焼きを一切れ食べさせ、
トラップとパステルを比べ見た。
 そして密かに祈るのだ。
 
(どうか、犯罪沙汰にはなりませんように)
 
 
 
そして今日もパーティは平穏無事であるのだ。
・・・・一応は。

 

オワリ


4←モドル


 
 
 
 
・・・・・・犯罪に走りませんように!!(本当にトラップファンか)

サブタイトルは全て笑い飛ばしてくださって結構です。(今頃言っても)
 
< 2002.05.16 up >
フォーチュン・クエスト (C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス
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