異口同音
** ゲームのネタバレ有り **

 
 裁判員制度のテスト裁判がようやく終った。
 結末はテストにしてはとんでもなかったけど……。
 真実が明らかになった事実がある限り、今回のケースは語りかけ続けるのだろう。
「ま、私には関係無いけどね」
 私は刑事だし、科学捜査官になったって追い求めるものは同じ。
 それにしても長い3日間だった。
 試験裁判であり7年分を凝縮した裁判だったから当然か。
 かりんとうを食べながら肩を回した。
 カガク的に甘いものだけじゃ取れない疲労が乗っているようだ。
 温泉に行ってゆっくりしたいところだけど、入浴剤入りの家風呂で妥協するしかないのが切ないところ。
 ともかく報告も終わって用がなくなった検事局からはさっさと出るに限る。
 誰もいない廊下を足早に歩いていたら、ふと通路の暗がりに人の気配を感じた。
 メインの通りでなく、非常階段への横路なのでほとんど使われない。
 経費節約の為に灯りが消えているその場所に、誰かがいた。
 壁に寄せられた3人掛けのベンチに座りこんでいるその人物は、
組んだ両手に額をつけてうなだれていたから顔は見えなかった。
 しかし派手な格好と日本人離れした体格(なんか周りには多いけど)は一人のみ。
 ガリューウェーブのボーカリストで今回の裁判の担当検事、牙琉響也。
 閉廷後はきびきびと係官や刑事(私のこと)に指示を飛ばしていたし、
平行して抱えている裁判の準備もつつがなく済ませていた。
 誰もが驚き戸惑っていた判決の直後で、最もクールな態度だったと言える。
 でも……だから平気という結論にはならない。

 そっと近づいたとはいえ、ぴくりとも反応がない。
 普通に声をかける気にはならないので、物真似でお茶濁し。
「元気を出しなさい、響也」
 もしかしたら眠っているのかも?
 チラッと脳裏をよぎった考えは、跳ね上げた顔の驚いた様子に打ち消された。
「なんだ、君か」
 取り繕うような笑顔は少し不自然。
 いつもは能天気なくらい笑顔をふりまく検事が相当沈んでいる証拠に他ならない。
 物真似なんか、するんじゃなかった。
「かりんとう食べますか? 一個なら分けてあげないこともないですよ」
「刑事君にしては極上の優しさだね。もらおうか」
 言葉にひっかかりを覚えながらも、差し出された手に一つだけ乗せてやった。
 物珍しそうにかりんとうを見ていたけど、がりっと噛みついた。
 すると、きょとんとして私を見上げた。
 私がさくさくと食べれるのが不思議だと言わんばかり。
 取り合わないでいると、残りのかりんとうも食べ始めた。
 さくさくさくがりがりさくさくがりがりさくさくがりさくさくさくさく。
 かりんとうを噛む音が一段落すると、検事は初体験であるかのように頷いた。
「悪くないね」
「あんたさくさくカリントウをさくさくさくさくさくバカにさくさくしてるでさくしょ?」
「はは、食べながら喋る姿もキュートだよ」
「…………ごくん。かりんとうを軽んじる者はかりんとうに泣くんですよ」
「ふうん。それは怖い」
 言葉と表情が合ってないってのよ。
 まったく、こんなおいしいものを理解しないなんて!
 ムッとしながらかりんとうを噛み締める。
「さっきの、さ。……もう一度言ってくれないかな」
「さくさくさくさくさく…………ごくん。さっきの?」
 見上げた検事にオウム返し。
 かりんとうについて、なわけないか。
 色々な意味で意外なリクエストだったものの、無下に断る気は起こらない。
 沈み込んだ気持ちが分かるからなんて素晴らしい理由じゃない。
 普段はムカつく程に存在主張激しい検事が、本当に静かに大人しく待っているんだもの。
 軽く咳をして声音を整えると、検事はまぶたを下ろした。
 決して好きになれない人物でも、こうも違うと調子が狂って、困るのよ。

「元気を出しなさい……響也」

 牙琉検事はしばらくそのままで、やがてゆっくりと目を開けて苦笑した。
「アニキが絶対に言わないセリフだ」
 それに対して何も言わなかった。
 当時の関係者でない私にとっては沈黙くらいしか言葉がない。
 現在の関係者であっても、兄弟の間に口出しする権利なんかない。
 どれだけ落ち込んでいるのだとしても、再び彼を立ち上がらせることが可能なのは彼だけだ。
 ベンチから立ち上がった検事はいつもの笑顔を取り戻していた。
「さて、君は早く帰りたまえ。美容に睡眠は必要らしいよ」
「言われなくたって帰るけど……。検事は帰らないんですか?」
 この検事の疲れは私とは比べものにならないほど大きいに違いないのに。
「枕元でララバイでも歌って欲しいのかい? ボーカリストの僕は安くないよ」
 検事としてなら安いのかもしれない男のからかいの言葉。
「いりません」
 なによ、人が親切心で言ってやったのに!
 ふてくされる私をくすりと笑った検事は光の方へと足を向けた。
「じゃ、かりんとうのお礼に、明日もランチを一緒にしよう」
「イヤです。ていうか『明日も』って何!? したことないでしょ!」
 去って行く背中に怒鳴りつけると、ひらりと手を振った。
 あの足取りならカガク的にも大丈夫そうね。
 いや、イガク的にも、かな。
 重たそうなジャラジャラとした鎖を外せばもっと体の負担が減るだろうに。

 さくさくとかりんとうを食べていると、突然、アイディアが浮かんだ。
「かりんとうに金属成分を入れたらどうかしら?」
 そうね、名前は……『ちゃりんとう』。
 キラキラと派手に輝いて、人気は芸術的に核融合爆発!
 やっぱりカガクって素晴らしいっ!
 問題なのは人体に有害な成分が必要だってこと。
「食べられないわね」
 どこかの誰かさんみたいに。


オワリ


 
 
 
 
エンディングのちゃりんとうがあまりにツボで!
逆裁キャラはみんな良い味(濃い味?/笑)ありますが、
この2人も、検事と刑事の関係含めて好きです。

< 2008.02.17 修正up >
逆転裁判4 © CAPCOM
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