夏のご挨拶を

 
「ちょ、阿呆な事しないで下さいよ、副隊長!」
「しないよ。うるさいなあ」
「オイコラ弓親、お前ついて来たくせに見てるばっかりじゃねえか!」
「いやだな、僕は面白そうだから来ただけ。副隊長の好きにさせたらいいじゃない」
「……面白そうだからか?」
「もっちろーん♪」
「テメー、いっぺん滝にでも打たれて来い!!」
「つるりん、うるさいってば!」

 夏空の下でかしましいのは護廷十三隊の十一番隊副隊長に加え三席と五席。
 しかし彼らの前の扉にはいずれの匠によるものか、七の文字が掲げてあった。
 門をくぐって顔を見せたのは、死神一のいぶし銀と名高い七番隊副隊長、射場鉄佐衛門。
「ひとの隊舎前で騒ぎおって。何しとんじゃ」
 とは言え、元は十一番隊の射場にしてみれば懐かしい顔触れ。
 用事が何であれ、茶の一つでも出してやろうと思うところ。
 だが、中に招き入れようとする前に一角にすがりつかれた。
 実際にすがられたわけではない、念のため。
「射場さんも止めてくれよ!」
「いいじゃないか。副隊長は七番隊隊長にお中元を送りたいだけなんだからさ」
 弓親言葉と同じくさらりと髪を梳いた。
 それには射場は感心した。
 大よそそういった俗世慣習の事柄に興味の無さそうなやちるが、である。
 かつての上司というよりは、離れていた親戚の子どもの、成長を喜ぶ気持ちに近い。
「ほう。それはそれは。心遣い感謝しますわ、草鹿副隊長」
 射場に誉められたやちるは胸を張った。
「おいしい缶詰にしようと思うんだ! でもねー、悩んでるの」
 小さな手をあごに当てて見せる様は、子が親の真似をするようで、何とも微笑ましい。
「馬鹿止めろ!」
 鉄佐衛門は一角を見たが、そのままやちるに向かった。
「儂に分かる事やったら助言しますけ」
 凄みある笑顔は並の死神には刺激のあるものである。
 例えば、四番隊員では席官に入っている者でも涙を流して笑顔をキープしようとするかもしれない。
 しかし少女とはいえコワもてだらけの十一番隊の副隊長を勤める少女。
 元部下に凄まれようが花に蝶が止まった位にしか感じない。
「コマコマは鶏肉ささみと角切りビーフ、どっちが好き? あと、野菜入ってるの平気?」

 つまり缶詰を贈ろうと。
 お犬様用の、缶詰を贈ろうと。

 一角は、サングラスで隠れがちな射場の表情がわずかに強張るのを見た。
 七番隊副隊長は咳払いし、「残念ですが」とサングラスを指で押し上げる。
「……狛村隊長は、缶詰物は口に合わんと聞いとります。乾燥した物も好みでないとか」
「ふーん、舌が肥えちゃってるんだね☆」
 やちるを言いくるめて暴挙を止める事のできる男、射場鉄佐衛門。
 彼が根っからの十一番隊である片鱗かもしれなかった。
 戻って来てくれりゃちったあ楽なのによ、と一角は空を仰いだ。

 数日後、七番隊長宛てに十一番隊長名義の中元包みが届くことになる。
 その中身が何であるかは、この日の夏の青空ですら知る所ではない。

オワリ


 
 
 
十一番隊大好きです。入隊希望出すならここ!
次点は六番隊と十三番隊です。(聞いてないっての)
更木隊長はお中元とか無頓着そう…部下に一任してそう。
事務や総務は一角と弓親が何とかしてるんじゃなかろうかと…。
そしてやちるはある意味で最強の死神だと思います。

< 2006. 08. 11 up >
BLEACH ©久保 帯人 / 集英社
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