[Title11:為せば成る]
木の枝から飛び降りたデシ。
広げた翼を動かして、バランスを取るデシ。
ゼンゴ、ジョウゲ、ミギヒダリ。
でも。
「……い、痛いデシ」
ほんの少しバランスを崩しただけで、地面に激突しちゃったデシ。
足を下に飛んでいて、どうして頭からぶつかってしまうんデシかね?
「派手にコケたなあ」
木の上のトラップあんちゃんが呆れたような顔をしてるデシ。
ちょっと恥ずかしいデシ。
地面に転がって頭を抑えてる姿は男らしくはないデシもんね。
そしたら。
「こんな所に! トラップ! 一緒に買い物行ってくれる約束でしょ!」
見ると、旅館の建物の角からパステルおねえしゃんとルーミィしゃんがいたデシ。
パステルしゃんは腰に手を当てて、いわゆる仁王立ちデシ。
しかし重大なのは、凛々しい通り越して男らしいパステルしゃんの言葉デシ。
今朝にそんな話をしていたデシけど……わ、忘れていたデシ!
「ごめんなさいデシ!」
頭を下げるとパステルしゃんはぽかんとしたデシ。
「どうしてシロちゃんが謝るの?」
「トラップあんちゃんは飛行訓練に付き合ってくれだけデシ。悪いのはボクなんデシよ」
「あ、ああ。そうだったの。いいのよ、シロちゃんが謝る必要もないわ」
おめーはおれに謝ったらどうなんだよ、とトラップあんちゃんが口を尖らせたのデシけど、パステルおねえしゃんは爽快な笑顔で無視したようデシ。
「それなら特訓が一段落したらにするわね」
ボクは首を振ったデシ。
「パステルしゃんのお約束が先デシから。それに……もう特訓は終ろうと思ってた所デシ」
どうやらボクはとても情けない顔をしていたみたいデシ。
何故なら、はっと口に手を当てたパステルしゃんは屈み込んで、ボクをそっとなでてくれたからデシ。
「しおちゃん、どおどおだお」
ルーミィしゃんもボクをわしわしとなでてくれたデシ。
「『為せば成る』と言うけど、無理しないでいいのよ」
「ぶわぁーっか!」
木の上からトラップあんちゃんが降りてきたデシ。
身の丈以上もある高さだったのに平気だなんて、とっても身軽デシね。
トラップあんちゃんはパステルおねえしゃんに指を突きつけたデシ。
「なにが『為せば成る』、だよ。無理なものは無理に決まってんだろ」
ドキッと、したデシ。
特訓をはじめて10回以上墜落してしまって落ち込んでいたんデシ。
ホワイトドラゴンなのに飛べないなんて恥ずかしくて情けなくて、付き合ってくれてるトラップあんちゃんにも申し訳なくて……ドラゴン失格なんじゃないかって思ってしまっていたんデシよ。
バシッと、パステルしゃんはトラップあんちゃんの手を払って、立ち上がったデシ。
「そんな言い方ないわ!」
お返しのようにトラップあんちゃんに指をつきつけたのデシ。
「やってみなきゃわからないでしょ!」
「やって落ちてんじゃねーか」
「100回失敗したって、次は成功するかもしれない。やらなきゃわからないじゃない!」
「ま、そりゃそーだ。実際シロはフラフラでも飛んでるんだしな」
「でしょ? ほら見なさい」
パステルおねえしゃんはふふんと満足そうに笑ったのデシ。
「じゃ、おれはカジノに行ってくっから」
「あらそう、行ってらっしゃい。またクレイの装備をカタに入れないでよー……って、ああ!?」
パステルしゃんが叫んだ瞬間にトラップあんちゃんは駆け出して、あっという間に姿が見えなくなったデシ。
「まったくもう、逃げ足だけは速いんだから!」
「はやいんらからー」
ルーミィしゃんもおでこに手を当ててトラップあんちゃんを見送ったデシ。
「パステルしゃん、『ナセバナル』デシよ。追いつくかもしれないデシ」
ちょっと驚いたような顔をしたパステルおねえしゃんデシたけど、そうね、と苦笑して頷いたデシ。
「トラップ、まちなさーい!」
元気に、どこか楽しそうに駆けだしたパステルしゃんの後姿を見ながら、何となくトラップあんちゃんはつかまるんじゃないかないかと思ったデシ。
去っていく時にボクに笑いかけたトラップあんちゃん。
本当は「無理なものは無理」なんて思ってなかったんじゃないデシかね?
盗賊の修行は厳しかったって聞いてるデシ。
もしかしたら、ボクと同じように落ち込んだりくじけそうになったのかもしれないデシ。
だからわざとあんなことを言ったのだと思うデシ。
「しおちゃん。ルーミィね、クッキーもってきたんだお。とっくんおったらたべよう?」
見ると、ルーミィしゃんの手には普通のクッキーと、モンスター印のクッキーがあったデシ。
……パステルしゃんと来る前に、一度ルーミィしゃんが来た気がしてたデシけど。
最初からそのつもりで持ってきてくれたんデシか?
「ボクの練習につきあってくれるんデシか?」
「なせばなる、らって。ルーミィもじゅもん言えるようになったんらもん。しおちゃんも飛べるお」
そうデシね。ルーミィしゃんも頑張って魔法を使えるようになったんデシ。
やらないままでは101回目は来ないデシもんね。
「それにね。とっくんの後のクッキーはとくべつおいしいんらよ!」
「本当デシか? 楽しみデシ!」
ルーミィしゃんは凄い事を知ってるんデシね。特訓のセンパイデシ。
見上げた樹はボクよりもルーミィしゃんよりも、さっき腰掛けてたトラップあんちゃんよりも高いデシ。
更に高いところにはみすず旅館の屋根が、もっと上には吸い込まれるような青空があるデシ。
パステルおねえしゃんの嬉しそうな声とトラップあんちゃんの驚いたような声が風に乗ってきたデシ。
案外近くにいたんデシね。
なんだか自信がわいてきて、今度はしっかり飛べる気がするデシ。
いや、少し違うデシね。
失敗しても挑戦を止める気がなくなっただけデシ。
成功がその先にあると信じれるようになっただけデシ。
トラップあんちゃんが木に登れたように。
ルーミィしゃんがメモを見ずに呪文を唱えれたように。
パステルしゃんがトラップあんちゃんを捕まえれたように。
深呼吸をひとつして、思いきり地面を蹴ったのデシ。
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