T★P 1Dace [03] こづく | |
しかし、状況の好転を待つのみなど性に合わないのだ。 木の下で腕を組んでも良いアイディアは浮かばない。 ただ、自分の中に結論めいた意思があるのを確認だけだった。 「何してんですか、あんたは」 振り向くと、キットンとノルが逆さまに立っていた。 「トラップ、血が昇らないか?」 「頭がクラクラしてきたとこ」 おれは足を引っ掛けていた木の枝を掴み、勢いをつけて離した。 半回転して地面に着地すると2人分の拍手と歓声。 ふっふっふ。悪くねえな。 「で、ショーを見せるために待機してたんですか? 暇ですねえ」 「んなわけあるか。考え事してたんだよ」 「ああ。下手の考え休むに似たりって言いますよね」 阿保な事を言うキットンをポカリと一発。 「おめーこそ雑念だらけだろ!」 「あんたのと一緒にされたくありませんねえ。キットン族においての雑念という観念は低俗なものではなく……」 キットンがぐだぐだと話していると、ノルが遠慮がちに口を開いた。 「パステルのことか?」 べ、別にアイツなんか好きでも何でもないんだからな! なんて動揺するわけもなく。 「まあな。どーにもあいつの考えが分からねえんだよな」 細かいことにすっげえ傷ついてると思いきや図太いくらいの行動力を見せる。 仲間である以上は分からないで済ませるのはどうにも落ち着かない。 「例えば、突然どっかの男と一緒になるとか言い出したら困るんだよ」 「それが自分かもしれないし?」 「だったら話が早……って、そんなんじゃねえ! このままでいいのかって事だ」 これには二人とも「ほう」という顔をした。 そしてキットンは肩をすくめた。 「しかしねえ、女心が分かるならベストセラー書けますよ」 「だぁーら、そんなんじゃねえっての」 カミさんがいるからって鼻にかけやがって。 けっ、結婚なんざ男にとっちゃ墓場みてえなもんだろ。 しょせん家庭に縛られちまうもの……でもねえな、この男の場合。 「トラップは仲間想いだな」 い、いや、ノルが言うような高潔な話でもないと思うぞ。 「ふむ。そう感じるのはコミュニケーション不足でしょう。だから例えば」 キットンはいささか真面目ぶって、前髪に隠れた目をキラリと光らせる。 「例えば、こづくとか。反応を見るのも有効でしょう」 「一石投じるってわけか、なるほどな」 ただ、ヤツが読み取りやすい反応をするかどうか。 「ま。メナースがその努力を認めて、パステルがトラップの愛に気付くようにしてくれたらいいですね」 ふん、そんなカマに引っ掛かるもんか。 ……って、婉曲どころか、思いきりストレートじゃねえか! 「べ、別におれはパステルなんか好きでも何でも 訂正しようと振り向いた時、二人の姿はそこにはなく。 ばたん。 扉が閉じて居所が分かったものの、追いかけて否定するのもバツが悪い。 だあー、カッコわりー! これも全てパステルのせいだ! それにしても……。 おれは再び腕を組んで首を傾げた。 「『こづく』って、どういうことだ?」 Selection! こづくっていうのは…… 1.どつき漫才じゃね? 2.つまるところ、デコピンだろ? 3.いっそ子作り視野に入れてみろって意味か? 4.相手のからだを指先などでちょっと突く。 また、おさえて揺する。「ひじで―・く」 →yahoo辞書 | |
どつく 「……でな、なんやこのワンちゃん喋るなあ思ったらドラゴンやってん」 「いくらなんぼでもウソやろー。んなけったいな話があったらたまらんわ」 「何言うてんの。あんたも毎日会うてるやん」 「えっ! ま、まさかウチのシロが!? せやけど、『わんデシ』って鳴くだけやで?」 「そら単純明快。あんたが嫌われとるだけや」 「なるほどなー……て、ええ加減にせえ!」 ビシッとツッコミが入って、どっと客が沸いた。 「ども、ありがとございましたー」 俺とパステルは体が直角になる礼をして、拍手喝采を受けながら簡易ステージの袖へ引っ込んだ。 とたんにパステルの笑顔は崩れ、不安そうに尋ねてきた。 「ねえ、トラップ。いつまでこんなこと続けるの?」 「エベリンは今日まで。次はリーザリオンの強行軍だかんな、しっかり休んどけよ」 舞台衣装のジャケットを脱ぎつつ答えたが、パステルは首を横に振った。 「日程じゃなくて、漫才自体のこと。わけもわからずステージに立ってたけど、このままじゃ冒険者ってことも忘れそうになっちゃうよ」 「……言っただろ。これは俺達に必要なイバラの道なんだ」 「それがわけわかんないんだって。シルバーリーブに帰ろ? みんなに会いたい」 両目に涙を溜めたパステルの手にはくしゃくしゃになった紙があった。 昨日届いたクレイからの手紙の中に同封されていた、ルーミィが描いただろう絵。 ち、里心がついたみてえだな。 とはいえ俺もその訴えにグラッときちまってるのは事実。 何となく、本末転倒してんじゃねえかと薄々と感じていたからだった。 だがしかし! 「ドツキ漫才で一旗あげる、これこそが俺たちの芸人への道なんだ!」 「いや、あんた盗賊でしょ?」 「悪くないツッコミだぞ。客がいなくてもそのお笑い根性を忘れんな。次の公演も気合い入れて行け!」 そうだとも。 笑う門に福来たる、未来は明るいに違いねえさ! きっとたぶんおそらくは。 「もう……もう、やめさせてもらうわーっ!!」 その日一番のツッコミをパステルは炸裂させ、結果的にコンビは解散した。 見事なツッコミではあったが、鳩尾に拳なんてもんは寿命を縮めるからな……。 夫婦漫才ではないエンド
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デコピン パーティでぞろぞろ森を進んでいる中、パステルだけが口数が少なくなっていた。 他のメンバーは「またか…」という表情。 漏れずお俺も思いきりため息をついて、しばらく直進が続くのを確かめると、問題児を除く他の連中を先に行かせた。 すぐに追い駆けるが、しばらく俺とパステルの二人きりってなわけだ。 「説明してもらおうか?」 「ま、迷ったわけじゃないの!」 「ほほー。迷ってないなら何なんだ?」 「だいたいは分かってるんだってば。方角は間違いないはずだし。……ただ、地図に載ってる3本の道のどれか特定できないだけで」 「それを迷ったっつーんだよ、あほ!」 俺は指先に力を込めてパステルの額に一撃をお見舞いした。 パステルの手前怒ってはいるものの、内心ガッツポーズをしていた。 村を出発してから……いや、クエストを請け負った日からこの時を待っていたんだ。 何たって俺たちの仲を進展させるためにデコピンは必須らしいし。 考えてみればバカップルが『はっはっは、こーいつー☆』とか何とか言いながら額を指でチョンと押しやったりするじゃねえか。 俺たちの場合はそのこっぱずかしいコミュニケーションがすこーしばかり過激になってるだけだ。 デコピンをくらわせた箇所からは細い煙がぷしゅーと出ているが範囲内だろう。 マッパーとしての成長を促す副作用みてえなもんでもあるわけだし。 「……ここまでする?」 「へ?」 パステルの声、いつもより低くねえか? 泣きそうにしては背負ってるオーラが黒いような。 きっと俺をにらみ、信じられないと言わんばかりに憤慨していた。 「道を迷ったわたしに責任があるけど、女の子の顔に傷をつけるなんて!」 き、傷だあ!? 俺がしたのはデコピンだぜ。 ちっとばかり赤くなってるだけで、10分もしない内に元に戻る程度の。 大袈裟に傷物にした責任でもって嫁にしろとでも言ってんなら別だが、そんな様子でもねえし、俺だってそんな展開ま期待するほど男を落としちゃいねえ……はずだ。 「傷なんかついてな」 「トラップにはデリカシーってものがないのよ! 何よ、たかが5本のどれを歩いてるか分からないだけじゃない!」 「増えてるじゃねーか!」 ビシッ。 「…………あ。わりぃ」 し、しまった。 あんまりにも寝ぼけた事を言いやがるもんだからついデコピンを追加しちまった。 パステルは頭から蒸気を吹き出し、噛み付いてくる。 「女に手を上げるなんてサイテーよ、このDV男! ふん、もうマッピングでトラップには頼らないからっ!」 「いやこれは愛のムチと言うかコミュニケーションの一環と言うか」 剣幕に押されてしどろもどろになる俺を見るパステルの目は転じて冷ややかだ。 「言い訳がましい男もねー…」 ぽつりと呟いて、呆然と立ち尽くす俺を残してクレイ達の方へと去って行った。 何だよ、その荒んだセリフは。 パステル、おめぇはそんなキャラじゃねえだろ!? 「そんなお前に誰がしたーっ!?」 痛切な疑問の声に、どこからも答えは返ってこなかった……。 DVってことは家庭内?エンド
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子作り そうだよな、パステルだもんな。 純情を通り越して鈍感なあいつに合わせて好いた惚れたの恋の駆け引きをしようもんなら、人生という日が暮れちまうってもんだ。 使い古されたセリフのひとつにもあるじゃねえか。 『俺の子どもを産んでくれ』 生半可のプロポーズじゃ通じねえだろうパステルだもんな。 「というわけでだ」 「何が『というわけ』? そんなことよりコレ……」 パステルは呆れた様子で、原稿用紙の代わりに並んだ品々を見下ろした。 「見て分かるだろ。ほれ、おめえが持ってる木彫りのキーホルダーはノルの村に伝わる安産守りだってよ」 他にも子宝を授ける像、どんな子が宿るか祈る木板、産後の肥立ちをよくする薬草、乳児から遊べるおもちゃだとか、何の為かよくわからない帯だの枝だのもある。 子どもを授かり産まれるまでの祈願アイテムを適当に集めてきたがほんの一部。 その数の多さに昔からの不滅な願い事なのだとつい感心してしまったくれえだ。 「小説書いてたのを邪魔してまでの重大な話ってこれのこと?」 頷きながら、パステルの隣に引き寄せた椅子に座る。 「俺だってな、考えてんだぜ」 「えー、トラップがあ? まあいいや。どんなこと?」 よからぬことじゃないでしょうねと顔に出しながら安産守りを机に戻した。 失礼な態度としか言いようがない態度だが、語ってやることにするか。 子どもが生まれたら出来る限り積極的に育児に参加すること、のびのび育つ環境にしたいこと、筋を曲げないよう育ってほしいこと、子に兄弟は欲しいが母体大事でどうしてもではないこと、跡継ぎ候補にはなるだろうが本人の意思を尊重すること、男子でも女子でもよいこと、名前もいくつか考えてあること等々……。 日の傾きを感じる時間の熱弁で、のどがボイコットを始めたので渋々話終えた。 さて、これだけ意見を見せればパステルもさぞ感動してるに違いない。 「……人の話を聞きながら寝んな!」 パステルは漕いでいた舟を止めると、もう少しで串焼きが食べれたのにだのなんだの言いながら口元のよだれを拭いた。 横目で睨むと、慌てて取り繕うように腕を組んで頷いた。 「よく考えてくれて、奥さんになる人も嬉しいんじゃない? よく分らないけど」 そうかそうか、嬉しいか! ってオイ。 「おめえ、何を他人事のように構えてんだよ。当事者だろ」 「え? 私の知ってる人なの?」 知ってるも何も。 事実を突き付けようと口を開いたその時だった。 「ふあ……おはようさんデシ。あれ? トラップあんちゃん何してるんデシか?」 寝ぼけた声を上げたのはパステルたちのベッドで目をこすっているシロだった。 昼寝をしていたらしく、その隣で布団から脚を出しているルーミィはまだ夢の中。 しまった、こいつらがいるんだったか。 シロにゃ罪はねえが、もう少し寝ていてくれたらと思わずにいられない。 これはもう子作り話どころじゃねえな。 眠気などサッパリない風なシロはトットコとこちらに寄って来た。 「その、机の上にあるのは何デシか?」 「無事に赤ちゃんが生まれてきますようにっていうお守りよ」 先ほどの木彫りを手にしたパステルの説明にシロはいたく感心した様子。 「無事に生まれてくるといいデシねえ」 「そうねえ」 ふとシロは首を傾げた。 「……赤ちゃんってどこから来るんデシか?」 「え、ど、どこからって。コウノトリさんがね、運んで来てくれるのよ!」 「コウノトリさんはどこで赤ちゃんを見つけて来るんデシか? コウノトリの赤ちゃんは誰が運ぶんデシか? どうして赤ちゃんを運ぶお家を知ってるんデシか?」 「そ、それは……えーと、その……」 矢継ぎ早に尋ねられてパステルは言葉に詰まる。 やれやれ、助け舟を出してやるか。 「俺が説明してやるよ。コウノトリはな、愛のある所にやってくるんだぜ」 「トラップ……!」 パステルはホッとした表情と共に見直したという表情を浮かべている。 こういうのはなあ、下手にごまかそうとすっからダメなんだよ。 「そんでもって愛を示す具体的な方法はというとだ」 「方法はというとデシ?」 神秘に興味を示したシロは言葉をオウムのように繰り返した。 「その方法とは、男女が同衾して愛し合う、つまり」 「ストオオォォォ 叫びと共に飛んで来たおもちゃを顔面でキャッチした俺は椅子から転げ落ちた。 椅子の向こうでは赤面したパステル。 どうやら投げたのは木彫りのクマをかたどった安産守りキーホルダー(約5kg)。 薄れ行く意識の中、コウノトリはキャベツ畑から赤ん坊を運んでくるのだと鬼気迫る勢いでシロに説明しているのを聞いた。 自身がまだ赤ん坊から抜け切ってないシロに子作りを説明するのが早いように、パステルに子作りを持ちかけるのは時機尚早だったかもしれない。 目が覚めたら机の上にある妊娠と出産のグッズを何て説明すりゃいいんだ。 畜生、コウノトリに頼まれたとでもごまかすかな……。 気が早すぎたエンド
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こづく たちの悪いことに、一日中キットンの謎掛けめいた言葉が気になった。 猪鹿亭での夕飯のテーブルですら上の空だったらしく、うっかりルーミィのジュースを横取りして非難轟々。 月が照らす帰り道でも気が乗らず、仲間連中の話の輪から一歩引いて歩いた。 何だか考えれば考えるほどわからなくなってきて、五感も薄れて失ってゆくようで焦り考えるも答えは出ずの繰り返し。 すっかり悪循環の中に入ってしまったようだった。 おれ、今までどんな風にあいつに接してたんだっけ? 地面を見つめて溜息を吐いたら、トンッと肩を叩かれてぎくりとした。 まさか背後をとられたのにも気付かないとは盗賊失格もいいところ。 相手が誰にせよ知られてはならない動揺を抑えて顔を向ける。 そこには満面の笑みを浮かべているパステルとルーミィがいた。 「やーい、引っかかった!」 「ひっかかったおう!」 パステルの指先は、おれの頬にがっちり刺さっていた。 「おめえ…………」 反射的に開いた口は文句の言葉を忘れてまた閉じた。 まあ、こんなガキの手にいちいち目くじら立てるのも大人げねえからな。 しかしパステルは悪ガキな顔から一転、眉尻を下げて心配そうな表情に変わる。 「あれっ? うそ、トラップったらそんなに元気ないの?」 前の方で「トラップが悪態もつかないなんて、明日は雨ですかねえ」とキットンは言ってぎゃはぎゃは笑い、「雪じゃないだけマシだな」とクレイが同じく笑って応じた。 「トラップあんちゃんが元気ないと雨なんデシか?」 ノルの隣を歩いていたシロが振り向きながら尋ねてきた。 人さし指を立てて腰に手をあててたパステルがそれに答えた。 「ものの例えだけど、それっくらい不思議ってことよ」 「とりゃーが元気ないのはふしぎなんらね?」 「そうね。トラップが黙ってるなんて、槍が降るくらい不思議かも」 オイコラ、そりゃどういう意味だ!? 「……てめぇーら、大人しく聞いてれば好き勝手言いやがって!」 「うわあー、トラップが怒った!」 「おこったあー!」 睨み付けると、明らかに楽しんだ様子でパステルとルーミィは数歩ほど逃げた。 ルーミィはそのままシロと共にノルに抱き上げられ、ちびには見晴らしの良いだろう両肩の特等席にそれぞれ座った。 パステルはそれを見て目を細くしている。 ちぇ。 まったく、このお気楽パーティときたら! 人を青年らしく悩ませたってくれねえんだからな。 早速おれは仕返しに取り掛かることにした。 「おい、パステル」 肩をつつかれたパステルは、さあきたぞと言うようなニンマリとした横顔。 「ざんねんでした。引っ掛からないよ」 パステルは正面を向いたまま。 上等だ。そうこなくちゃ。 こづいた手で細い肩をつかみ、しゃくしゃくだった余裕を削ぐ。 それこそ不思議そうにする耳元に近づいて、囁いた。 「負けた。おめえにひっかかるとは思わなかったぜ」 甘い声音になったかどうか。 ただ、茹でタコになったパステルは目を丸くして耳を押さえた。 何たる勝者の風格。 おれに感覚も元気も取り戻させちまう、すげえ力の持ち主には見えねえや。 でも、それでこっちが追うばかりもなっても面白くねえし。 たまには相手から小突いて尋ねてくるように仕向けてみたっていいだろ? 問題はこいつがそんなことを思いつくかどうか。 半ば祈る気持ちで、まだ目を白黒させているパステルを追い抜き、背を向けた。 正解エンド!
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お題は[ love&laby ] よりお借りしました。多謝!
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はい、意味の正解はバレバレでしたか?(苦笑) それなのに一番ヘタレトラップで、ハッピーエンドでもなくてすいません。 負けたとかひっかかったとかはそういう方の意味! ……説明のいらない作品がかけるようになりたいです。 他の選択肢(バッドエンドですが;)もご覧いただければ嬉しいです。
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< 2008.03.27 up > フォーチュン・クエスト (C)深沢美潮/迎夏生/角川書店/メディアワークス |
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